現在、弁護士だけが一人法人の設立を許されていますが、司法書士と土地家屋調査士にも一人法人の設立を許可しようという法改正の動きがあるようです。そこで今回は、個人事業主が法人成りするメリットとデメリットをまとめたいと思います。
法人とは何か?
まず法人とは何なのかを説明します。法人とは法的に認められている自然人以外の新しい人格です。個人事業の場合は、売上があり、経費が引かれ、残った利益がその個人の儲けとなり、所得税が計上されます。
しかし、法人の場合は、株式会社などの新しい人格を作るわけですから、取締役や社長、部長、新入社員のすべてが従業員となります。そして給料などの経費を引き、残った利益が会社の儲けとなります。そして、その儲けに法人税などの税金がかかってきます。
ですから個人事業の利益と、法人の利益は全く別物です。
社長の給料がどれだけ高かろうが、会社にしっかり利益を残し、来期に備えて現金を会社に蓄えておかなければ、経営が安定せず、倒産してしまうこともあります。会社の業績が好調にも関わらず、黒字倒産してしまうほとんどの原因は、会社に現金の蓄えが足りないためです。
会社経営を安定させるためには、経営者の給料をできるだけ少なく抑え、会社に利益を残し、現金を多く蓄えておくべきだと一般的には言われています。
個人が法人成りするタイミングは700万円?
それでは、一体どのタイミングで法人成りすべきなのでしょうか? よく言われているのは、所得税率と法人税率の兼ね合いから、個人事業主としての利益が700万円を超えてから、法人成りするのがお得だと言われます。
しかし私は、もう少し遅めの1000万円くらいを目安にすべきだと思います。なぜなら、先程話したとおり、法人を作るということは、自分自身の生活の心配をしながら、同時に会社という人格も管理しなければならないからです。
会社に給料をもらい、自分や家族の生活を保証しながら、会社に現金を残すために、しっかり利益を残さなくてはなりません。
このように、自分と会社のどちらにも気を使ったバランス感覚が経営者には必要なのです。単純に税金が安くなるからという判断ではなく、利益から税金を引かれた後の現金が余裕を持って会社に残せるくらいの状況でなければ、法人成りすべきではないと思います。
それでは以下に、法人成りするメリットとデメリットを列挙します。
法人成りするメリット
法人成りするメリットは以下の7点です。
個人よりも法人のほうが社会的な信用が高いと言われている
その理由は以下の3点です。
- 法人登記がしてあり、取締役や所在地、資本金などの情報が法務局で管理されている。
- 会社設立時に資本金を準備するので(昔は300万円、今は1円から)、その金額の多さで運転資金に余裕があるのかどうか判断できる。
- 株式会社の場合は、毎年決算が行われ、その結果が公表されます(一部の企業では非公開)。その内容の良し悪しで、会社の経営状態を判断することができます。
主たる事務所の他に、従たる事務所を設置できる
本店、支店という呼び名が一般的かもしれませんが、士業の場合は主たる事務所、従たる事務所という呼び名で事務所を増やすことができます。よくコマーシャルで目にする弁護士法人は、全国各地に従たる事務所があるため、大々的な広告戦略が可能となっています。
給与所得控除を受けることができる
個人事業主の場合は、売上から経費を引いた額が個人の所得になりますが、会社員の場合は給与を支給され、それにかかった経費を差し引くことはできません。従業員全員の経費を個別に計算するのは大企業の場合あまりにも手続きが煩雑になるからです。
その代わり、決まった額を経費のように給与から控除することができます。それが給与所得控除です。年収が低い方の控除額は多めに設定されていますが、高所得者の控除額は少なく、たくさんの税金がかかるようになっています。
厚生年金保険を受給できる
個人事業主の場合は、老後に国民年金だけしかもらえませんが、法人の役員や従業員になった場合は厚生年金保険を国民年金に上乗せしてもらうことができるため、老後にもらえる年金の額が個人事業主よりも増えることになります。
ちなみに、社員の場合は雇用保険や労災保険も適用されます。ただし取締役は経営者であり雇用される側ではありませんから、雇用保険に加入することはできません。介護保険に関しては会社員と自営業者による違いはないようです。
家族に役員報酬を支払うことができる
例えば妻を役員にし、役員報酬を支払うことができます。奥さんにもバリバリ事業を手伝ってもらっている場合、代表取締役一人に報酬を払い、妻を扶養に入れるよりも、旦那を代表取締役、妻を取締役として報酬を分けたほうが、額によってはトータルの所得税が安くなることがあります。
ただし、役員報酬の額は簡単に変更するのことができないため、ある年度に業績が良かったからといって期末にその年度の報酬を上げるようなことはできません。役員報酬を変えることができるのは、原則として事業年度開始の日から3ヶ月以内です。
ちなみに、賞与は役員に対して支給することができません。(支給はできるが経費にならない)
赤字を9年間、繰越できる
これは、法人化を検討されているような業績のよい事業主のかたには関係ないかもしれませんが、赤字を出した場合、9年間繰越でき、黒字と相殺できます。
青色申告の場合は3年ですが、法人の場合は9年となっています。ただし、法人住民税は赤字であっても必ず、7万円請求されるようです。
生命保険を経費にできる
個人事業主の場合は経費になりませんが、法人の事業主の場合は生命保険を経費にすることができます。ただしこれに関しては、今後、法改正により生命保険を経費として認められないようにする流れがありますので、あまり当てにしないほうがいいかもしれません。
法人成りするデメリット
法人成りするデメリットは以下の3点です。
支払うべき会費が増える
例えば土地家屋調査士の場合は、毎月決まった額の土地家屋調査士会費を支払っていますが、法人も一人の人格ですから、個人と法人のダブルで会費を収めなくてはなりません。商工会には法人会という集まりもあるので、その会費もさらにかかってくるようです。
法人化の費用20万円
定款をつくったり、法人の設立登記をしたりするのに合計20万円ほどかかります。そしてこれに加えて、資本金を準備する必要があります。この金額は300万円必要だった昔と違って1円でもいいとはなっていますが、登記簿に記載される金額なので、会社の信用度の指標として確認されることもあります。ですからやはり、昔に習って最低300万円くらいは入れておきたきところです。
決算が少し難しくなる
個人事業主の場合は、青色申告で会計ソフトを使い、確定申告をしたことがある人が大多数だと思います。法人の場合は、最終的な利益に法人税や法人住民税、法人事業税がかかってきますし、社会保険の計算もあるため、個人事業よりも決算が複雑になります。思い切って税理士さんにお願いし、事業に集中するのも手かもしれません。引き続き「弥生会計」を使って決算をしようと思われているかたは、個人事業主向けのプランから法人向けのプランへの変更が必要となります。
まとめ
個人事業主から法人成りするメリットとデメリットを列挙しましたが、圧倒的に利点が多いため、業績が好調な土地家屋調査士、司法書士、弁護士のかたは、ぜひ一人法人の設立をオススメします。ただし、一般的に言われている利益700万円という目安よりも、遅めの1000万円以降での法人登記を個人的にはオススメします。
ちなみに会社設立の際には、「マネーフォワードの自分で会社設立」というサービスを利用すれば、司法書士に支払う手数料をかけずに簡単に法人登記の手続きができます。
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