土地家屋調査士として業務を行うには、CADソフトやトータルステーションなど、測量を行うための高価な設備投資が必要となります。そこで、今回は土地家屋調査士として開業を予定されている方に向けて、業務を行う上で必要なPCソフトや測量機材、その他の道具の説明をしたいと思います。すべてを揃えようとするとかなり高額になるため、同じ支部の土地家屋調査士と協力して、できるだけ初期費用を抑えて開業することをオススメします。
★★★ …… 必ず必要
★★ …… 余裕があれば必要
★ …… あると便利
PCソフト
CADソフトや登記申請書、調査報告書作成ソフトなど、様々なソフトがあります。
図面作成のためのCADソフト★★★
福井コンピュータ、アイサンテクノロジー、BBCなど |
新規契約料約100万円、システム保守料金年間15~25万円 |
所属する土地家屋調査士会の支部の方が多く使われているソフトがオススメです。入会時に支部長さんに書類を提出するので、その時にでも質問してみればわかると思います。
しかし、最新の機械やソフトを導入した場合は話が変わってきます。先輩の調査士でも操作方法がわかりかねる内容となる場合は、やはり購入するメーカーに問い合わせるのが一番。ですから、購入後のサポートがしっかりしている会社のものを選ぶと良いです。私自身、実際に現場で困ったときに担当者にすぐに電話し、対応して頂いています。特に新しい機械を導入した直後の現場では、操作に困ることが多く大変助かっています。
申請書、調査報告書作成ソフト★★
福井コンピュータ、アイサンテクノロジー、BBCなど |
20~30万円 |
これもCADソフトと同じく所属する土地家屋調査士会の支部の方が多く使われているソフトがオススメです。はじめはExcelやWord、調査士会が提供しているソフトを利用しても十分に対応できます。
法務局の登記官が電子申請などを閲覧する際、使用しているソフトがBBCだという噂を聞いたことがありますが、真偽は不明です。私は福井コンピュータのソフトで統一しているため、TREND REGICを利用しています。どのメーカーのものでも、調査報告書作成や電子申請まで対応しています。
PDF編集ソフト★★
Adobe Acrobat Standard DC 36か月版 |
約35000円 |
以前は同じ価格で永久ライセンスだったのですが、いつからかAdobe製品はすべて期限付きの製品ばかりとなってしまいました。Word、Excelはもちろんですが、成果品でPDFを扱うことが多いため、あると便利です。
会計ソフト★★
弥生会計、freee(フリー)など |
年間1~3万円 |
やっぱり王道の弥生会計がいいと思います。毎年更新料がかかりますが、おかげで決算は1日もかからず終わります。簿記の知識がなくても簡単に仕分けが行えることはもちろんですが、クラウド上にデータを保存できますし、銀行明細、クレジットカードなどの取引データ、レシートや領収書のスキャンデータを自動仕訳してくれるので、入力と仕訳の手間が大幅に省けます。
売上が1000万を超えて、消費税が絡んでくるようになったら節税もかねて税理士に相談しようかなーと、なんとなく考えています。
測量機材
トータルステーションはもちろんのこと、GNSS測量や、UAV測量用の機器など、たくさんの測量機材があります。
トータルステーション★★★
トプコン、ソキア、ニコン・トリンブル、ライカなど |
約200万円、自動追尾・自動視準機能付きは約260万円 |
これがなければ測量ははじまりません。予算的に厳しい方の場合は、新品を購入したり、リース契約を組まずとも、1台目は中古品でいいと思います。中古の測量機械でも、検定を受ければ誤差のない正確な測量ができますので、問題ありません。
しかも開業したてで、現場の測量を手伝ってもらえるパートナーを探すことができない場合は、一人で測量しなければなりませんが、その場合は自動追尾の機能がついたトータルステーションとデータコレクター、ミラーに装着するコントローラーが必要になります。メーカーの詳しい説明はこちら。
効率的にも、精神的にも、出来るだけ測量は二人以上で行うことをオススメしますが、やむを得ない場合は自動追尾での一人測量を検討しましょう。しかし、平面図などを作成する際に、膨大な測点数を測量する場合は、二人以上いたとしてもやはり自動追尾機能があったほうが効率的です。
GNSS受信機★★
トプコン、ソキア、ニコン・トリンブルなど |
1台約150万円 |
測量したい現場の近くに利用できる基準点がない場合、何キロも離れた遠くの基準点を引っ張ってくるのは大変な労力です。従来の方法でトータルステーションを使い基準点測量をするのではなく、GNSS受信機を使い1~2時間、新設基準点に機械を設置しておくだけで基準点測量をすることができます。
アメリカのGPS、ロシアのグロナス、日本のみちびきなどの人工衛星と、電子基準点を利用して現場の近くに設置した新設点の座標値を取得することができます。
これまではスタティック観測が一般的でしたが、最近ではRTK法による観測も普及し、10エポック(だいたい10秒くらい)で座標値や標高値を取得できます。観測した座標値を計算をするためのソフトも別途必要です。
UAVドローン★
DJI |
約20~30万円 |
土地家屋調査士の測量用ドローンはPhantomシリーズを利用されている方が多いと思います。しかし、Phantom 4 Proとカメラの性能はほぼ同じで、コンパクトになり、全方向障害物検知がついた「Mavic 2 Pro」が発売されました。現在、もっともオススメのドローンはMavic 2 Proになります。もちろん、すでにドローンを導入され、よりハイスペックな機体を必要としている人は、Inspire 2や、Phantom 4 RTKを導入してもいいと思います。
ドローン以外にも、iPad(コントローラーに接続し、画面として利用)、DJI公式の自動飛行アプリ(DJI GS Pro)、画像処理ソフト(Metashape)、GISソフト(QGIS)、CADソフトが必要です。Metashapeのスタンダード版があれば、ドローンで撮影した座標付きの現地の空中写真と、CADで作った筆界を重ねた図面を作ることができます。立会いの時に重ね図で説明すると非常にわかりやすく、調査報告書に添付する調査図としても活用できます。
そして先ほども紹介した通り、GNSS測量のRTK方式を利用して、より精度の高い写真測量が可能になる機体がPhantom 4 RTKです。位置精度が高いため、より少ない対空標識やより少ない伐採で測量することができます。
ドローン測量に必要な道具は、この記事にまとめています。
電子平板★
現場でCAD編集をするためのタブレット端末です。現場で測量しながら、平面図の編集ができるため、広大な現場では非常に重宝します。平面図の作成がめちゃくちゃ捗ります。あまり使ったことはありませんが、電子レベルと接続し、縦横断図の編集もできます。
電子レベル、スタッフ、巻尺★
登記業務メインの土地家屋調査士には関係ないかもしれませんが、水準測量で必要となります。電子レベルの価格はバーコードのスタッフとセットで約30万円。
レベルとは、標高を正確に測るための機械です。トータルステーションでも標高の測定はできますが、レベルのほうがより正確に測定できます。以前はスタッフの目盛りを目視で読み、野帳にメモして電卓で計算していました。しかし、最近では電子レベルという機械が普及しており、スタッフに貼られているバーコードを読み込むことで、高さを測定します。データはすべて機械の中に取り込めるので、野帳に書く手間や読み間違いが減り、非常にコスパのいい機械です。
その他の道具
パソコンソフトや測量機材の他にも、必要な道具はたくさんあります。
複合機やプリンター★★★
事務機会社とリース契約している事務所も多いのではないでしょうか? 契約内容にもよると思いますが、複合機でバンバン印刷していると、とんでもない請求額がくることがあるらしいです。プリンターはインク代で料金を回収するらしく、本体代はお得に感じることが多いです。
インクジェットの大判プリンター★★
Canon、EPSON、hpなど |
約50万円 |
プリンター本体は安いと書きましたが、大型になると価格は跳ね上がります。複合機やプリンターは事務機会社とリース契約してもいいと思いますが、プロッターは取扱いがなく、購入しなければならないのではないでしょうか?
大きな図面をスキャンし、電子化する必要が出てくるので、スキャナー機能も必要です。
カメラ★★★
データ容量に余裕がある場合は、スマホでオーケー。容量に余裕がなくても「Google フォト」というアプリを利用すればスマホ本体の容量を圧迫することはありません。パソコンとクラウドで同期できるよう、Dropboxもインストールしておきましょう。しかし、やっぱり写真の枚数が多いとアップロードで時間がかかるので、デジカメがおすすめです。防水・耐衝撃がいいと思います。
現場用車両★★★
土地柄にもよると思いますが、私は田舎に住んでいるため、必ず中古で4WD付きのライトバンを使用しています。荷物がたくさん積めて、小回りがきくためです。現場の足場が悪いときには、四駆でなければ走れない場合がありますし、山道を走ることも多いので、新車を購入してしまうと、すぐに傷だらけになります。
もちろん、土地柄によっては山に行くことはほとんどなく、車が傷ついたり、足場が不安定なこともない場合もあるでしょうから、これも開業前には近くの土地家屋調査士さんに相談してみるべきだと思います。
都会に事務所があり、倉庫を準備できない場合は、車を倉庫代わりに利用されてもいいかもしれません。
刈払い機★★
宅地で使うことはありませんが、農耕地や、原野などでは使うことが多いのではないでしょうか? 特に夏場には、足元が見えるように綺麗にしておかなければ、マムシと遭遇する危険も高まりますので、注意が必要です。ちなみに、ハチ用の殺虫スプレーも必需品です。
ミラー(プリズム)、ピンポール★★★
後視用、ポールマン用に2セットあったほうがいいです。建物を測量するための、背面が平らで誤差の少ないミラーもあります。
三脚、ターゲット★★★
基準点測量で必要になるため、三脚は前視、後視、機械用に3セット、ターゲットは前視、後視用に2セット必要です。ちょっとの風ではビクともしないように、通常は木製の少し重めの三脚を使います。しかし、山に登って測量するときもありますので、そんな時にはアルミ製の軽い三脚が活躍します。
ポール、ポールスタンド★★★
境界標の遠景写真を撮影する際に必要となります。
コンベックス、ハンマー、鎌、ノコギリ★★★
コンベックスはマグネットタイプで、私は3.5mのタイプがかさばらないので好きです。ハンマーも用途によって使い分けると便利です。測量鎌は熊本県人吉市にある「則光刃物店」 の測量鎌がよく切れます。ただし、伐採がメインではなく、念のために持っておきたい場合には、小さいタイプの鎌を袋に入れてぶら下げておくと便利です。
測量杭、杭袋★★★
カクマルの杭袋が丈夫で、杭が取り出しやすく便利です。
マジック、ペンキ、接着剤★★★
境界標を設置する前にペイントする必要があるため、ペンタイプの油性ペンキを準備しておきましょう。
接着剤も、物によってはゴムのように柔らかくしか固まらない商品もあるので、現場で設置する前に固まり具合を確かめておいたほうが良いでしょう。
ハンマードリル、金属鋲、キャップ、金属プレート、引照点★★★
境界標や引照点の設置時に使います。コア抜きやドリルの刃も必要になります。金属鋲のキャップは基準点用には赤、境界点用には白をよく使います。金属プレートを設置する場所が穴を開けられない場合もあるので、穴ありのアンカーで固定するものと、穴なしのボンドのみで固定するもの両方を揃えておくと安心です。
トランシーバー★★
交通量が多い現場などで声が通らない時に便利です。携帯の通話でもいいのですが、バッテリーと料金がもったいないので使いません。
金梃、ダブルスコップ★★
コンクリート杭を埋設するための穴掘りで使います。現場によっては石だらけで、金梃では歯が立たない場合があります。そんな時には掘削機と発電機を準備しましょう。
カラーコーン、チョッキ★
道路を測量するときなんかには、コーンを設置し、チョッキを着て、測量中であることを車の運転手に知らせましょう。
安全靴、ソックス、脚絆★★
ソックスはスキー用の厚手のものでないとすぐにゴムが伸び、一昔前に流行ったルーズソックスのようになってしまいます。ソックスの上に脚絆を巻くのですが、これはくっつき虫と、ソックスの破れ防止に役立ちます。汚くてすみません。笑
開業資金の準備について
開業時に融資を受ける場合は、日本政策金融公庫がオススメです。また、CADソフトのメーカーによっては、IT導入補助金の対象になっているので活用しましょう。さらに、ホームページの制作や広告を利用して、積極的に販路開拓をする場合、または最新機材を導入して業務の効率化を図る場合は小規模事業者持続化補助金がオススメです。
まとめ
いかがでしたか? 土地家屋調査士が開業時に揃えるものが意外と多く、お金がかかります。しかし、私の周囲を見渡してみても、潤沢な資金を元手に開業に踏み切る人はごくわずかであるように思います。むしろ、ほとんどの土地家屋調査士が金銭的に不安を抱えたまま、融資などを利用して開業に踏み切ります。お金がないからこそ開業し、人の何倍も働かなければならないのだと思っています。
ちなみに、「土地家屋調査士事務所の開業までの流れ、必要な準備について」は、以下の記事でまとめています。
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