私の父は測量会社を経営しています。長男である私ではなく、二男の弟が会社を継ぐことになっているのですが、そのことを人に伝えると、「何でだ!?」と毎回すごく驚かれます。
理由はすごく単純で、私より先に弟が測量の学校に進学し、都会で測量会社に就職した後、帰郷したため実務経験も豊富で、2代目の経営者に相応しいという判断です。それに対して私は公務員の専門学校を中退し、フリーターとしてフラフラしている時期が長く、お金が無くなったので地元に戻り、測量の手伝いをはじめただけですから、誰がどう考えても次期社長は二男である弟が適任といことです。
そんな弟にまつわる話なのですが、ある日、地籍調査で現場の立会いを行なっていました。地籍調査とは、一筆ごとの土地について、所有者、地番、地目を調査するとともに、土地の境界(筆界)と面積(地積)を測量することです。
法務局に備えられている地図には、地租改正が行われた明治初期に備えられたものが多く、これらは見取り図のような役割の地図であったため、現代の測量技術のような正確さを備えた地図ではありません。そこで、土地の売買などを円滑にできるよう、正確な地図を作って日本全国の土地の整備をしようというのが地籍調査の役割です。
そして、土地と土地の境に杭を打って、隣接所有者にこの位置で間違いないですね? と確認をして書面に印鑑をもらうのが「立会い」になります。一般的な公共事業の測量に比べ、この地籍調査業務は仕事量が多く、決して割のいい仕事ではありません。
ある日、土地の筆界の確認のため、地権者さんと立会いをしていると、この地籍調査業務に詳しい方がおられて、「ある程度要領よく仕事をこなさないと、この仕事は儲からんぞ」と、弟と私にアドバイスしてくださいました。それに対して私はいつもの愛想笑いで乗り切ろうとしたのですが、弟はこう反論したのです。
「適当に要領よく仕事して儲かっても意味ないですからね」と。
この発言を聞いた時に私は、2代目の社長は弟で間違いなかったことを痛感しました。
確か、社会の教科書に企業経営の目的は「利潤の追求」である。と書かれていました。しかし、あれは確実に間違っています。このブログで何度も説明してきたように、お金を目的に働いた場合、すぐに目標を見失ってしまう可能性が高いのです。お金だけを労働の対価として働いていては、その仕事の存在意義として非常に弱いのです。
詳しく知りたい方は、こちらの記事を覗いて見てください。
つまり、仕事に必要なのは利潤の追求ではなく、お金儲け以外を目的とした経営哲学が必要なのです。それが、私の弟の場合は「正確な測量をする」ということなのでしょう。正確な測量をするということは、土地の所有者の財産を守るという点で非常に重要です。私も土地家屋調査士として、お金儲け以外の哲学をこれからも追求していきます。
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